母の笑顔を求めて

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年末は、母との温泉旅行が毎年恒例だ。しかし、2020年は新型コロナウイルスの影響で自然と中止になった。

「去年の今頃は伊豆に行ってたね、なんだか懐かしいね」

ある日、突然母から言われた一言。母の言葉がなんだか寂しそうに聞こえた。

大学を卒業し、3年間勤めた会社はシフト制で、夜中の勤務もあった。人が寝ている時間に働くので、午前中帰宅し、シャワーを浴びて昼間に寝るという昼夜逆転の生活になることもしばしば。暦通りの休みとは無縁だった。もちろん年末年始も関係なく働いた。家のことはほとんど母に任せっきりで、この3年間は仕事しかしてこなかったように思う。

仕事が嫌だと思ったことはなかったけれど、家に帰れば人間関係の愚痴を母にひたすら話していた。母だって家事で疲れているのに、自分のことばっかりだった私は、母の気持ちを全くと言っていいほど考えられていなかった。後から聞いたけど、当時はほぼ毎日1時間以上は愚痴を言っていたらしい。母が疲れていることに気づきもせず、全くダメな娘だった思う。

母との時間をもっと大切にしたいという思いや私自身の体調の問題もあって、3年間働いた会社を辞め、転職をした。転職先は平日週5勤務の17時半退社。残業なしのホワイト企業。年末年始もしっかり休みがある。

そんなある日。何か母にプレゼントをしたいと思った。もともとお出かけが好きでコロナ禍以前はたくさん旅行をしていた母。そうだ、旅行をプレゼントしよう。

母とどこかへ行くなんていつぶりだろうか。学生の頃は親と出かけるなんて、ましてや泊まりなんて嫌で嫌でしょうがなかった。友達も彼氏もいないから親と出かけている、そんな人に見えるんじゃないかって。

「ねぇ、年末旅行しない?」

「急にどうしたの?」

「うーんなんとなく。温泉でも行ってゆっくりしようよ」

「そうだね。旅行プレゼントしてくれるってこと?」

「そうだよ。プレゼントするに決まってるじゃん」

お互いに照れ笑いをして、母と娘の二人旅が決まった。

この恒例行事が始まったのは2018年からだ。毎日、休むことなく家事をしてくれている母。それが当たり前だと思っていて任せっきりだった娘。この旅行は「ゆっくりすること、何もしない」がテーマなので、必ず温泉旅行になる。母はとても嬉しそうだった。「ゆっくりしようという娘からの言葉に少しは救われたのかな」……なんて思ったりもした。

2020年も旅行をするだろうと思っていたけれど、現在も世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルスの影響で、母を笑顔にする旅行が中止になった。寂しそうな母の顔を見て私も悲しくなった。

旅行は、人を笑顔にする。

辛い日常から救い出してくれる。

また明日から頑張ろうと思える。

私にとって旅行は特別な存在だ。だからこそ、私は母と旅行をしたかった。母の笑顔を見ることができる旅行を。 今は簡単に旅行できなくなってしまったけど、また以前のような日常が戻ったら、まず一番に母と旅行したい。

文・あやか

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