9回目の結婚記念日

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私と夫は、2年ほど前から別居している。

別居のきっかけは夫の転職だった。それまでは都内で一緒に暮らしていたが、夫の仕事先が隣県になり、東京で会社をつくって間もない私は仕事に専念するため、都内に残ることを選択したのだ。

別居してからは、週1回程度会えるかどうかだ。同じ沿線に住んでいて、電車に乗れば30分程度の距離。しかし、夫は早朝から晩まで働き、土日も仕事が入ることが多いし、私も土日関係なく働く。それでも、なんとか時間をつくって会うようにしていた。

新型コロナウイルスが日本に上陸し、感染者がじわじわと増え始めた3月下旬。これ以上感染者が増えたら、緊急事態宣言も発動されるかもしれない。そんな時期に、お互いの家のちょうど中間点で待ち合わせて、夫とご飯を食べた。もしかしたら、当分会えないかもしれない。それもあってか、いつもよりちょっぴりいい焼肉を食べることにした。

別れ際「元気でね」と伝えた。いつもは言わない一言だった。

それから10日ほど経って、緊急事態宣言が発令された。夫も私も在宅勤務になった。近いとはいえ、都外への行き来は自粛しなければならない。私たちは会うのをやめることにした。

当初は、コロナ禍での別居婚にメリットを感じていた。同居していたら、お互い在宅仕事でイライラするかもしれないし、Zoom飲みも気軽にできない。お互い一人暮らしだから家庭内感染のリスクもない。

会う機会が減った分、夫と私はLINEでのやり取りが増えた。夫は電話が苦手だが、たまに通話もしてくれた。お互いの体調や仕事を気づかうようになった。前よりも仲良くなった。コロナ禍でも、アフターコロナになっても、このままでいい。そう思っていた。

そんな日が続いたある日、夫から「結婚記念日どうする?」とLINEがあった。

私たちの結婚記念日は、5月10日。今年は9回目だ。毎年、この日だけはちょっといいレストランで食事したり、旅行に行ったりしている。

しかし、今年は状況が状況だ。「今回はあきらめよう」そう連絡しようと思ったとき、「焼肉を食べに行こうよ」「この店どうかな?」と夫から立て続けにLINEがきた。結婚記念日に限らず、お店を決めるのはいつも私。だけど今回は全部夫が決めてくれた。どうやってこんな店探したんだろう。夫の熱意に押されるがまま、今年の結婚記念日は焼肉店に行くことが決まってしまった。

たった1カ月ちょっとだけど、こんなに長い期間夫に会わなかったのははじめてだった。なんだか夫に会うのが照れくさいというか、ドキドキするというか。10年前付き合い始めた頃のことを思い出していた。

夫が予約してくれた焼肉店は、すごくおいしかった。これまで8回の結婚記念日でもそれなりに素敵なお店でおいしいものを食べたはずなのに、そのどれもがかすんでしまうくらい、とにかくおいしかった。夫との会話もとにかく楽しかった。毎日あんなにLINEでやり取りしているのに、ずっと話していたかった。

ああ、ずっと会いたかったんだな、一緒にいたかったんだな、夫も、私も。

別れ際、誰にもバレないようにさり気なくハグした。改札口を抜ける夫の後ろ姿を見ながら、やっぱりまた一緒に暮らそうと決めた。

文・大井あゆみ

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