スーパーマンだった兄へ。あの日、私が伝えたかった本当の想い

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姉妹は幼い頃にどれだけ喧嘩しても、年を重ねるほどに仲良くなる人が多いと聞くが、兄妹はその逆ではないか、と私は思う。

小さい頃は、どこに行くのも兄が一番。私は後ろをついてまわるだけで、当時の私にとってスーパーマンのような存在だった兄は、今では実家に帰っても「おかえり」「ただいま」を言うだけの存在になってしまった。

どこでその距離が開いてしまったのか。兄妹はこの先、一生分かり合うことはないのか。両親がいなくなったら、私に残るただ唯一の肉親である兄が、いつかこの先、どこかでこれを読んでくれる日がくればいいな、と思いながら、あのときには言えなかった「私の本当の気持ち」を綴ろうと思う。

兄の存在は私にとって「スーパーマン」だった

私には、3歳年の離れた兄がいる。破天荒で、規格外の発想で人とぶつかりやすい私に比べ、兄は比較的落ち着いた性格で、友人も多い。そんなおだやかで優しい兄のことが私は大好きで、そして、どこかでとてもうらやましく思っていた。

兄と私の3年という年月の差は、小学生までは同じ学校に通うが、それ以降は兄が卒業すれば私が入学する、という学年のサイクルを、高校まで繰り返すことになる。私のように田舎の学校であれば、地元の人は皆同じ学校に通うことになるため、例外なく私も、高校までは兄と全く同じルートを通って育った。

私にとっては初めての学校も、兄の存在があるため、だいたい入学式では「◯◯くんの妹」として、兄がお世話をした後輩などに私の存在はすでに知れ渡っている。兄の存在感が大きければ大きいほどに、私は入学当初から、はじめましての学校なのに「知っているひと」になる。一度、高校生の時にかっこいいなと一目惚れした3年の先輩が、たまたま兄のかわいがっていた後輩で、入学後に「先輩の妹」というポジションになれたおかげで一緒に遊びに行けるまでに仲良くなれるなどのミラクルを経験したことも、ある。兄の存在のおかげで私の存在を認知されるような場面をたくさん経験した私にとって、兄はまさに「スーパーマン」のような存在だったのだ。

そんな兄も、高校を卒業すると同時に、都内の大学へ進学した。私にとって、初めての兄とのお別れだった。荷物をまとめて、父と母と一緒に家を出た兄を見送ったその日、わたしはひとり、自分のベッドの上で、兄が居なくなった喪失感を経験した。

どこに行くにも、何をするにも、いつも兄の存在を感じていた私にとって、家の中から兄の存在が消えるというのは、それだけ衝撃的なものだったのかもしれない。当時まだ高校生だった私は、兄についていくことはできなかったし、そこから3年間、兄のいない地元の生活を送ることが、不安でたまらなかったのだ。

気づけばとめどない涙が流れていた。「あぁ、寂しいな」という人との別れを一番大きく経験したのがこのときだった。そこから、兄とはほとんど話さなくなった。

しばらくして、兄が一度実家に帰ってきたことがある。いつもと違う服装に、少しぽっちゃりした身体になっていた。昔からスラリと細かったから、すごく驚いたのを覚えている。でも、声と顔はいつもの兄のままだった。

「どうして帰ってきたん」そう聞くと「いや、なんとなく」そんな風にそっけなく返された返答をみながら、兄と会えなかった空白の時間に思いを馳せた。

私にとって、あんなにもスーパーマンだった兄は、今見知らぬ土地で、私の知らない人たちと交流し、知らない時間を過ごしている。兄が居ないと不安だった私もまた、地元で友達と交流し、この春から大学生としてこの街を出ようとしている。

同じ親から生まれ、ほぼ18年間、同じ環境で育ったけれど、こうして一度家を離れてしまえば、お互いの知らないことに触れ、なんだか相手が少し違う人のように見えるのはなぜなのだろう。そして、久しぶりに会った照れくささからなのか、どうして兄と素直に話すことができないのか、その微妙な心持ちを抱えながら、兄は次の日、バスで自分の場所へと帰っていった。

本当は、兄といろんな話をしたかった

兄妹とは不思議なもので、年を重ねれば重ねるほど、お互いの見えない距離というものがだんだんと開いていく。性別の差もあってか、お互いが何を考えているのかよくわからない存在になってくる。

あんなに大泣きした兄との別れを経験した私でも、今、兄と顔を合わせるのは年に一度あるかないかだし、兄も結婚し世帯をもっているため、きっとこの先も、あまり兄に会うことはないのだろうな、と思う。

けれども、もし、今、あの頃の私に戻れるのなら、言いたい。

「本当は、兄ともっと、話をしたかった」

両親がいなくなったあと、私に残るたったひとりの肉親は、兄だ。けれども、今の兄が何を考え、どんなふうに人生を送ってきたかを感じ取るには、お互いに年月も、気持ちも、離れてしまったように思う。

だからこそ、本当はもっと、兄と話をしたかった。親の話、彼氏の話、奥さんとの出会いの話、これからの生活や、仕事の話。

今、兄にあの日、兄が居なくなったあの日のわたしの心情を話したら、彼はなんといってくれるだろうか。「馬鹿だな〜」と笑うだろうか。「俺も寂しかったよ」なんて気の利いた話をしてくれるのだろうか。

兄は兄で、今だからこそ話せる家族の話をしてくれるだろうか。

たったひとりの、肉親である兄へ。

あの日、あなたと、もっと話をしたかった妹より。

文・ich

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