半沢直樹の妻・花の言葉で思い出した、「く」の字になっていたときのこと

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今年のドラマで一番楽しみにしていたのは『半沢直樹』だった。仕事が忙しくてリアルタイムでは観られなかったけれど、毎週録画して酒を片手に楽しんだ。

主人公半沢直樹(堺雅人)と、大和田暁(香川照之)の漫才のようなやり取りが絶妙で、毎回、腹を抱えてしまう。

なかでも箸休め的に流れる、半沢さんの自宅のシーンが好きだった。妻・花(上戸彩)がいいのだ。半沢に従順というよりも、むしろ元ヤン臭すらするし、時には言わないほうが……ということもポンポンと言ってのける。

とくに最終回が良かった。もしかしたら銀行にいられなくなるかもしれない半沢に向かって、「そっか。だったら、いっそうのこと辞めちゃえば?」「何があったか知らないけどさ、もう頑張らなくていいよ」とあっけらかんと言い放ち、半沢さんをぎゅうっとしながら「ありがとう」や「お疲れ様」を伝えるのだ。そして最後には「仕事なんかなくなったって、生きていればなんとかなる」のセリフ……。

号泣した。本当、その通り。もう相当頑張ったよ、半沢さん。休んでいいよ。毎回、敵に怒鳴りまくっているから、喉なんてガラガラだろうし。血圧が上がりまくることが多過ぎだから、きっとそのうち倒れてしまう。

だからこその、「もう頑張らなくてもいいよ」。

セリフにこそないが、何があってもすべて受け止めるよ、花はそう言っているような気がした。そういう人がそばにいると、きっと人は無敵になれる……。

なんて思いながら、私は消したテレビを見つめ、しばらく動けなかった。身体の奥深くから、何かが出てこようとする。すっかり錆びついて開かなくなった扉をこじ開けて、あの頃の私がどんどんせり上がってくる気がした。

***

「お腹が痛い」

小学生の私は、そういってよく学校を休んだ。頭が痛いこともあれば、喉が痛かったこともあったかもしれない。とにかくしょっちゅう、あちこち悪くなって学校を休んだ。ズル休みではない。本当にお腹が痛くて、体が「く」の字になってしまうのだ。

だが寝ていると、午後には元気になる。人から見たら「ズル休み」と言われてしまうかもしれない。でも私にとっては、体が「く」の字になるほどお腹が痛くなることも、頭が押しつぶされそうになるのも事実で、「一大事」だった。

そんな風にしょっちゅう休むものだから、父は「また休んだのか」と困った。だが母は困らない。「だって具合が悪いんだから仕方ないじゃない」と、私を許してくれた。

不思議と学校を休んだ翌日は、心がスッとして学校に行くことができた。今から思えば、私は学校に何らかのストレスを感じていたのかもしれない。たしかにあの頃の私は、まわりに馴染んでいなかった。好かれていない、いなくてもいい子だったんかもしれない。その時は「俯瞰して見る」なんてハイレベルな能力は備わっていなかったから、さっぱり分からなかったけれど。

「好きな相手とペアになって」と先生に言われると、崖から突き飛ばさせる直前のような恐怖を感じたっけ。いつも最後のほうに残るのは、私と他の子数名と決まっている。残ってしまう子にとって、あれは「人気のない子探し」という名の見世物だ。だけど怖いからやめて、なんて口が裂けてもいえなかったけれど。

それでも学校は好きだったし、友達がいないわけでもなかった。それでも身体は正直だから、しっかり反応していたのかな、今思えば……。

***

数年前、小学生の息子が「学校に行かない」と言い出した。お腹が痛いとかではない。彼は布団にへばりついたり、クローゼットに隠れたり、いろいろしながら全身で行きたくないとアピールした。私が困り果てているうちに、学校に行くタイムリミットになってお休みする……そういう日が続いた。このまま息子が不登校になってしまったらどうしようと怖くなった。

校庭で走り回ったり、給食を食べたり、日直のお仕事をしたり、好きな子ができたり、何かにチャレンジしたり……そういう日常を彼がこの先過ごせなくなったらと思うと、焦りがジワジワと私の心をいらだたせていく。

先生や夫からのすすめもあり、私は意を決した。息子を学校に連れて行くことに決めたのだ。

すでに授業が始まっている時間。本来ならランドセルを背負った子どもたちが通る通学路は、すっかり人通りはなくなっていた。「行きたくない」と言って、ガードレールをつかんではなさない息子の服やランドセルや腕を無理矢理引っ張り、ときには転んで半泣きになりながら学校に向かった。

そんな私たちに気づき、タクシーが速度を緩めて戻ってきた。事件性があると思ったのかもしれないし、需要があると感じたのかもしれない。私の糸は、そこで切れてしまった。その先はよく覚えていないが、結局息子は学校を休んだ。

その日、やっと息子が胸の内を話してくれた。学校で嫌な思いをしていること、それがしんどくて行きたくないこと。それまで、何度聞いても「行きたくない」ばかりで話してくれなかったことを、吐き出すように話してくれた。私は自分がダメダメな小学生だったから、息子も同じようなことになってしまうのかと、心が重くなった。そして思った。なんでそんな問題を抱えていた我が子を、引っ張ってでも連れて行こうとしたのかと……。

そんな騒動があった後に、母に息子の話をした。すると母は、あっけらかんとこういったのだ。

「学校に電話すればいいのよ。何でも先生と密にちゃんと話すの。私なんてしょっちゅう、学校に連絡していたわよ」

初耳だった。私の知らないところで母は学校に連絡して、学校での様子を聞いていたようだ。大きなチカラで守られていたのだ。学校と家庭、両方で。そして、私にバレないように。すごいな、母親の愛って。私もそんなふうに、子どもたちを大きな手で守れるだろうか。

***

『半沢直樹』の最終回。半沢さんに放った花の言葉に、すっかり私の心は過去をさまよってしまった。

半沢の妻・花のように、私も子どもたちに深い愛を示せているだろうか。母のように、一貫して子どもを思い、先回りして子どもの心を守ろうとできるだろうか。

……ちょっとまだ無理そうだ。修行が足りない。でも、私はとても愛されていた。その愛を胸に、子どもたちと日々向き合っていこう。

追記:ちなみに現在息子は、友だちに恵まれ、いつも楽しそうに学校へ通っている。

文・木奥えむ

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